2009年9月19日 Vol121 
提 供  漁船保険中央会

■□■□━━━━━━━━「海外漁業情報」━━━━━━━━■□■□


 「海外漁業情報」では、海外で操業される漁業者の皆さんへ、
 操業上の注意事項や国際会議の結果等をお知らせしています。
 海外まき網漁業協会 島一雄会長より特別寄稿して頂きました
 原稿の2回目を配信いたします。

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  中西部太平洋のかつおまぐろをめぐる最近の動き(2)      

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5 二百海里時代の到来

 本題に戻って、海外まき網漁業が制度化され、北部まき網漁業
や遠洋カツオ一本釣からの転換が行われ、1976年の5隻から1981年
20隻、82年31隻、89年32隻、97年35隻となり今日に至っています。
この間1977年米国の二百海里経済水域を設定に伴い本格的な二百
海里時代の到来を迎え、中西部太平洋諸国も順次二百海里経済水
域を設定していきました。これに歩調を合せてSPC(南太平洋
委員会)も広域漁業委員会設立に向けて関係国会合を招集しまし
た。78年五月の準備会合で、広域漁業機関設立協定案文が固まり
ましたが九月に条約採択会議が開かれると、島嶼国の間から、
案文があまりに漁業国寄りであり、島嶼国の利益が守られないと
して不採択に終わりました。不採択となった裏には豪・NZが動
いたと云われています。これを裏付けるかのように、条約制定に
失敗した翌年1979年に南太平洋フォーラム(島嶼国+豪・NZ)の
下にFFA(フォーラム漁業機関)が設立され、漁業国に対して
島嶼国と豪・NZが共同で対抗する体制を確立しました。更に
FFAの中でも赤道に近くかつおまぐろの好漁場に恵まれている
8ヶ国(パラオ、ミクロネシア、マーシャル、PNG、キリバス、
ソロモン、ツバル、ナウル)は遠洋漁業国との交渉に共同のアプ
ローチをとることを定めたナウル協定を締結しました。PNAは
漁船の地域登録制、共通最低入漁条件、隻数制限等をFFAに対し
建議し採択しています。わが国はこのような島嶼国の目まぐるしく
変化する中を、各国と個別に協定を結び入漁してきました。

6 米国まき網船の西進

 IATTCの規制の強化、中南米諸国との関係悪化、イルカ操業
に対する環境NGOからの圧力に懸念を抱いた米国まぐろ漁船船主
協会は政府の支援を得て、1974年PTDF(太平洋まぐろ漁業開発
財団)を設立し、その資金援助を得て、1970年代後半から1980年代
前半にかけて西部太平洋において試験操業を実施しました。又協会
はミクロネシア、マーシャル諸島と入漁協定を結び操業を行いまし
た。80年代に入って東部太平洋の米国のまき網をめぐる環境が厳し
くなると米国まき網船は大挙して中西部太平洋へ進出した結果、
PNG、ソロモン諸島、ミクロネシアに拿捕されるという事件が発
生、又時を同じくして、キリバスがソ連のまき網船の入漁を認める
という事態に米国政府は何らかの事態収拾を迫られました。米国政
府はそれまでまぐろについて沿岸国の管轄権を認めないとの政策を
とってきましたが、その政策を変更して、1987年に米−FFA協定
という長期包括協定を締結しました。協定は色々詳細に定めていま
すが協定期間は五年間(1988〜1993)2年目以降の最高入漁隻数は
55隻、1992年の実績は55隻、米国からFFAの支払いは1800万ドル
(21億円)ほかにオブザーバー費用として実費が支払われました。
米国国内の負担は政府1400万ドル、業界400万ドル(5億円)の他に
オブザーバー費用として実費を負担しました。FFA内諸国への
配分割15パーセント、入漁料割85パーセントとなっています。この
協定はその後1993年、2003年と更新されており、次期更新期は2013年
となっています。この協定の特長はポケット公海を含む広大な面積を
操業区域として与えられている他、入漁料に対し多額の政府補助が
行われていること、島嶼国と個別に入漁協定を締結する必要がなく、
個別入漁協定との優劣を検討してみる価値があります。

7 台湾、韓国、フィリピンのまぐろまき網の参入

 中西部太平洋の1980年代は米国船の大挙西進で幕を開けましたが、
1983年には台湾が87年には韓国が、90年にはフィリピンが中西部太
平洋のまき網漁業へ参入してきました。台湾は日本の全面的指導を
得て、韓国は米国のまき網船の中古船を使用して、フィリピンは
日本の中古船を使用してまき網漁業を開始しました。
 1980年代から1990年代にかけて中西部太平洋のまぐろまき網漁船
の急激な増加(1980年の19隻から1992年の200隻へ)に対し、日米
両国から懸念が表明されました。これに対しFFAは公海を含む
全ての回遊範囲についてFFA主導で高度回遊性漁種の管理や規制
を実施しようという考えを抱いていたものと思われます。このよう
な考えを勇気づけたのは、米−FFA協定で米国が公海における
漁獲報告義務とオブザーバーを受け入れたことにあります。

8 中西部太平洋まぐろ条約作成への動き

 中西部太平洋における急激な漁獲努力量の急激な増加、それに
伴う漁獲量の増加は、メバチ、キハダ資源に対する不安が高まり、
FFA諸国も公海を含む高度回遊性魚種の管理をFFA主導で実現
することは不可能と判断し、中西部太平洋における高度回遊性魚類
資源の保存管理の問題をハイレベルで話し合うことには応ずる姿勢
を示しました。もし自分達の気に入らない結論が出たら何時でも
引き上げようという方針だったのだと思います。
 1994年12月ソロモン諸島のホニアラで、中部及び西部太平洋に
おける高度回遊性魚類資源の保存管理に関するハイレベル会合
(普通これを「MHLC」と呼んでいます。)の第一回会合が開か
れました。
 さて、MHLC会合の方は、1998年東京で開かれた第三回会合に
おいてナンダン議長(元フィジー外相)作成の条約草案が提出され
ました。草案はきわめて島嶼国寄りであったため、第三回会合から
第五回会合までの間、日本韓国は努力してその偏向を修正すべく
努力しましたが受け入れられませんでした。第七回会合において
条約は採択されましたが、日本と韓国は漁業国の意向が反映されて
いないとして反対、中国、フランス、トンガは棄権しました。日本
国内で草案が極めて島嶼国寄りで、漁業国の意見が正当に反映され
ていないとして日本政府内部にはこれに反対する意見が強く、条約
に加盟すべきでなく条約の運用規則等を定める準備会合参加の条件
として(一)条約に関心をもつ全ての国、地域の参加を認めること
(二)条約の改善を議題として取り上げることを要求しましたが、
受け入れられなかったため、第一回及び第二回会合は欠席しました。
しかし、第一回会合からEUは正式に参加を認められており、また
条約の改善を議題として提案し、欠席したことにより本条約に問題
ありということを内外の認識を深める効果はあったとし、第三回
からは、条約の運用や運用面から少しでも改善を図るのが重要との
判断から参加しました。
 第七回会合で条約を採択するにあたり参加二十二ヶ国は、「条約
が発効し、保存措置が決定されるまでの間、各国は漁獲努力量を
1999年水準以上に増やさない」という決議を行っています。ただ
この決議には「ただし開発途上島嶼国の開発意欲を阻害してはなら
ない」というただし書きが付いていて、このただし書きを使って
台湾が主導して漁獲努力量を大幅に増加させたことが今日のめばち
30%の漁獲量の削減が必要となった大きな要因と考えます。皆様も
お解りの通り、この削減はMHLCの決議を破って漁獲努力量の
増加した所がその責を負うべきでありましょう。(つづく)

                                                  
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