言うまでもありませんが、社会の半分は女性が構成しています。その女性たちがいま、農業分野、とりわけ畜産分野では一番元気なのではないかと思われ、本欄でも機会あるごとに取り上げてきました。中央畜産会で発行している「畜産コンサルタント」誌の2017年2月号では、畜産経営だけでなく、畜産を取り巻くいろいろな組織・分野で活躍中の女性の元気な姿、11事例を特集していますので紹介することとしました。
 まず、総論では、長い間農業分野の女性問題について調査・研究をされてきた安倍澄子先生(現・日本女子大学教授)が「畜産分野で女性が活躍するために」と題して、27年度に行った調査から、女性の畜産(農業)経営への参画動機を解析しています。それによると、新規就農を除けば、結婚による経営参画と職業として農業(畜産)を選択し、農業後継者としていわば家業を継ぐ形が増えてきているということです。この傾向は特に若い世代で顕著で、それには、やはり女性のライフサイクルを見据えたワーク・ライフバランスが大事で、育児、介護などの家計のやりくりと、農業経営のなかでは「家族経営協定」などで女性の力を明確に位置づけることや6次産業への取り組みが就農機会ともなっており、「やりがいと生きがい」を求めることに、いかに応えるかが重要だと報告しています。
ついで、農林水産省の就農・女性課の久保香代子さんが農林水産省の調査による実態や国際関係の変化、女性就農促進・補助事業について紹介するとともに、女性が経営に関与しているグループは関与していないグループに比べて収益が71.4%も増加しているといいます。
 ついで、酪農家の清水ほずみさん(地域交流牧場全国連絡会会長)が酪農教育ファームや異業種との交流活動を「酪農の持つ多様な価値や役割を伝えたい」と報告されています。
埼玉県の農事組合法人セイメイファームの嶋田文代さんは、42年の法人発足以来、「安心と美味しさ」にこだわって、自家産の卵でいろいろな加工品製造を行っていて、現在は8種類ほどに落ち着いているが焼きプリンとマヨネーズが売りだそうです。また、一緒に働いている女性たちにももっと外に出られる機会を作ってあげたいといいます。
 中央畜産会の原子亜里沙さんは、兵庫県の黒田庄で活動している「黒田庄和牛婦人部」13人の活動を報告しています。黒田庄は食肉荷受会社や食肉センターが婦人部のために枝肉共励会を開催していることで知られていますが、実際に肥育事業を支えている部員の名前が公表され表彰されることが大きな生きがいになっているそうです。
 畜産経営を取り巻く職場からの報告では、北海道のとんとん診療所・高橋佐和子さんは養豚場の管理獣医師。HACCPの指導や審査を行ったりしながら、昨年から自家産豚肉の加工兼直売所を始めたそうです。HACCPの指導では、女性目線を生かしていると評判で、独自の手順書をつくって農家の奥さん方にも分かりやすくしたそうです。高橋さんは獣医師という従来の枠にとらわれず、柔軟な発想で様々な分野に挑戦したいといいます。
動物(家畜・野生)の海外からの移動が増加していますが、農林水産省の動物検疫所中部空港支所の渕上佐和子さんは、海外からの防疫の最前線で活躍する家畜検疫官です。家畜はもちろん、牛肉等の畜産物の検査も対象となっており、従来体力のいる男性職場と考えられてきましたが、最近は女性担当者が増加し、特に若い職員が増えて活気にあふれているそうです。動物検疫所は北海道から沖縄まで1本所、7支所、17出張所あるそうですが、男女の区別なく待遇されているそうで、女性の職場として案外、穴場かもしれません。
 ついで、これまでは単独で牛を保定し、鎌で爪を切るという力のいる男の職場とされてきた削蹄師の分野では、大分県日田市で開業する削蹄木村代表の木村かおりさんが「私に出来る削蹄」として報告しています。木村さんは短大卒業後北海道の牧場へ就職したそうです。「自分の居場所」を求めてアメリカにわたり、削蹄により歩けない牛が歩けるようになったのをみて閃き、「機能的削蹄」の先駆者であったカール・バーギ氏の学校に入学し、枠とグラインダーによる削蹄技術を学んだことが大きな転機になったといいます。いまでは女性の削蹄師は10数名がおられるそうです。むしろ女性のこまやかな観察眼が最も生かせるといいます。
 岩手県の葛巻町酪農ヘルパー利用組合の専任ヘルパー木戸場真紀子さんは、岩手県酪農の本場でヘルパー活動を行っています。葛巻町には8人の専任と8人の臨時ヘルパーさんが127戸の酪農家に対応しているそうです。ヘルパーの利用は冠婚葬祭時の臨時利用型から計画的に利用する定期利用型に変わってきているそうで、奥さんたちが休暇終了後、普段より明るい表情で帰ってくるのを見たときが仕事に誇りを持てる瞬間だといいます。
この特集のように、畜産経営や畜産経営を取り巻く支援組織で活躍する女性の、「生きがいややりがい」を感じている姿には、男社会で語られるような「苦労話」がほとんどなく、羨望とまぶしさを感じます。
 もうひとつ、特集ではないのですが、「女性の視点・卵から始まる楽しさ、おいしさ、そして笑顔に出会うために」という岡山県蒲走コ庵代表・藤井美佐さんの記事を紹介します。
藤井さんは、自家で飼っている約8000羽の鶏(ちなみに雌鶏)を社員と呼びます。卵娘庵とは雌鶏と11人の女性スタッフが中心の会社という意味だそうです。平飼いにこだわり、加工品にもそれぞれニックネームを付けており、「きいぷり」は黄色いプリン、白身を使った白いプリンは「しろぷり」、「ひよせん」は無添加・手焼きのせんべい、「卵屋さんのたまごボーロ」は孫に食べさせたいおやつといった具合。また社員の働く部門もマルチワーカー制と名付けて、すべての職員が農場、GP、直売所の3つの部門を移動するようにしているそうです。これによって各部署間の責任感や思いやりが行き届き、お客さんとの会話が弾むようになったといいます。近い将来、卵を中心とした観光農園を目指しており、「お客様に笑顔で帰っていただく」をモットーにしているといいます。

 詳しくは中央畜産会の広報誌「畜産コンサルタント」2月号をご覧ください。