「畜産の情報」2017年5月号の『次代に道を拓く知的装置か「ロボット搾乳」の現段階』と題する筑波大学名誉教授永木正和氏の調査論文が載っていたので紹介したいと思います。
酪農経営にとって、毎日行わなくてはならない搾乳作業は拘束性の高い作業であり自動化が求められるが、ロボットは投資額が大きいところから大規模経営でないと導入できないと考えられてきました。この調査報告は北海道十勝地方の酪農家2経営の調査結果で、規模的には中〜小規模層の酪農経営への導入の可能性は大きいと報告し、酪農経営はもっとIT化(スマート化)していくことが必要であり、将来を見据えた労働力不足対策やロボットから得られる各種データをいかに活用していくかが最大のポイントと指摘しています。
 調査事例の一つは、十勝の前田牧場(ロイアルオーク牧場)で、タイからの実習生を含めて6名が従事し、経産牛は140頭(搾乳牛110頭)の十勝地方としては平均をやや上回る中堅の牧場。2009年にフリーストール畜舎を新築すると同時に搾乳ロボット2基と給餌ロボット、育成舎に哺乳ロボット、スラリー・ストアをあわせ約2億円(搾乳ロボットは周辺機器込みで1基3000万円)を投資したそうです。スーパーL資金を活用し順調に返済してきており、ロボットの導入効果は100%とはいえないが十分満足しているといいます。乳量も10%増加して1万キロを超えたそうです。
 もう一つの事例は同じ十勝の(有)福良牧場で、4人の家族と6人の社員で、自己有地48ha、借地53haにはチモシー、他の畑借地66haにデントコーンを作付けており、デントコーンは畑作農家が播種から除草まで、収穫からサイレージ調製は福良さんが行っています。乳牛頭数は370頭、うち120頭がロボット搾乳で、250頭はヘリンボーンで搾乳しているそうです。これはまだ、施設の償却ができていないからといいます。いまは、120頭をつかって、ロボット向きの搾乳牛に改良するノウハウを蓄積中といいます。1日平均の搾乳回数は3回、搾乳量は1万キロを超したそうです。将来的には、完全無人化を目指したいといいます。
 2事例に共通して言えることは、牛の各種ストレスが低減したことによって乳量は増加し、乳房炎などの発生が少なくなったことなどいくつかあげられるそうです。問題は機械の維持管理だそうで、2事例は、異なるメーカーの機器を利用しているのですが、地域内に営業所があり、すぐにサービスが受けられる良さはあるのですが、1基当たり年間メンテナンス料が両事例ともかなりの額になっており、この負担軽減が重要になっていると、調査者は指摘しています。
 詳しくは農畜産業振興機構の機関誌「畜産の情報」2017年5月号をご覧ください。