2009年10月2日 Vol122 
提 供  漁船保険中央会

■□■□━━━━━━━━「海外漁業情報」━━━━━━━━■□■□


 「海外漁業情報」では、海外で操業される漁業者の皆さんへ、
 操業上の注意事項や国際会議の結果等をお知らせしています。
 海外まき網漁業協会 島一雄会長より特別寄稿して頂きました
 原稿の3回目(最終回)を配信いたします。

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  中西部太平洋のかつおまぐろをめぐる最近の動き(3)      

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9 中西部太平洋まぐろ条約の発効とわが国の加盟

 本条約は2004年6月に発効し、同年12月に第一回委員会が開催さ
れました。国内では引き続き加盟すべきか否かの議論がくすぶって
いましたが、「わが国が条約に加盟しない場合は、我が国抜きで、
我が国近海を含むわが国漁船の操業海域についての国際ルールが
できる可能性もあり、更に条約水域内の島嶼諸国の水域から、わが
国漁船が実質的に排除される危険性もはらんでおり得策ではない」
との判断から早急にこの条約に加盟し、積極的に保存管理措置の
決定過程に参加していくべきであるとの意見が大勢を占め、2005年
8月7日に我が国の中西部太平洋まぐろ条約への加盟が発効しました。

10 メバチ、キハダに厳しい資源判断

 中西部太平洋まぐろ管理委員会の下で科学委員会が正式に活動を
開始する前は、中西部太平洋にはSCTB(Standing Committee on 
Tuna &Billfish)「まぐろ・かじき常設委員会」という科学者会議が
あり、中西部太平洋のまぐろ資源についての見解を出していました。
その時既にメバチ・キハダの資源について警告が出されていました
が、2005年ヌメアで開かれた第1回のWCPFC科学委員会でメバチ・
キハダについて、まき網は努力量が2001年〜2004年平均レベル
(或いは2004年レベル)を超えないことが勧告されました。
更にマニラでの第2回科学委員会においてはキハダについては資源を
MSYに留めるためには2001〜2004年レベルのF(漁獲)を10パーセント
削減させる必要があること、メバチに関しては25パーセント削減さ
せる必要があるとの勧告がありました。ホノルルで開催された
第3回科学委員会においてはメバチの資源評価は行われず、キハダに
ついて過剰漁獲の可能性も考えられることから、Fの削減が求められ
ました。ポートモレスビーでの第4回科学委員会ではメバチについて
Fの30パーセントの削減勧告が出されました。
何故このような事になったのでしょうか。
 さて、1994年12月から開始された「中西部太平洋を対象とした
条約の起草及び交渉のための多国間ハイレベル会合」(MHLC)の
議論において、我が国は、科学的資源管理の下に持続的漁業を行う
ことを主張したのに対し、豪・NZ等は少しでも資源の減少が予想
される場合には予防的措置として厳しい管理の導入を主張して対立
していました。そのような表舞台の議論と平行して、水面下では、
台湾が島嶼国に接近して、島嶼国の漁業開発計画を進めていました。
又フィリピンやインドネシアは地のりを生かして、固定式パヤオを
設置し、大々的にかつおまぐろの漁業の振興を図りました。フィリ
ピンは更に隣国PNGに進出してかつおまぐろ漁業の発展に力を
注ぎました。
 2000年9月、MHLC第七回会合でWCPFC条約を採択するに
あたり「参加国は条約が発効し、資源管理措置が決まるまでは参加
国は1999年水準に漁獲努力量を抑える」という決議を行っています。
ただこの決議には「ただし、開発途上島嶼国の開発意欲を阻害して
はならない」というただし書きについていることは前に述べました。
このただし書きには「資源状態が良好な場合には」という条件を
付けるべきであったと思います。
 このただし書きをフルに活用して、台湾、フィリピンは島嶼国の
漁業開発を進めました。缶詰工場やロイン工場の建設と引き換えに、
まぐろまき網の許可を取得して、台湾勢力を35隻から64隻と倍増さ
せ、さらに中国にも働きかけ、中国は開発途上国であると主張して、
このまき網を0隻から8隻に増やし、2009年の時点においても更に
12隻増隻しようという動きがあるといわれています。EUもODA
とセットで島嶼国を長期協定を結び、許可を確保しています。この
ような状況では前にFFAが定めた205隻の上限を守られるはずが
ありません。近年米国船は米−FFA協定で定めた40隻の枠を一杯
に使うことはなく毎年20隻以下、2007年などは12隻という状況でした。
そこでFFAは米国船の空枠見合いで総隻数が205隻にならないよう
に運用していました。また毎年ではありませんが、ある年などは、
FFAは米国船空枠見合いの許可船については空枠見合いであること
を脚注に明記し、もし米国船が着業したならばこの許可は取消される」
とまで記してある年もあります。

11 隻日数(VDS)の導入

 PNA諸国は、205隻の隻数管理に代えて隻日数(VDS)管理を
導入し、更に競争入札を入れて入漁料収入を図ろうという検討を行っ
ていました。しかし隻日数制度とすると管理が難しいし、漁獲努力量
の増加を誘発することにはならないかといった議論がPNA諸国の
内部にもあって中々実施に踏みきれませんでした。PNGの漁業当局
責任者なども当初はあれは外務省のやっていることで自分は預かり
知らぬことであると云っていましたが、PNGの陸上投資に見合いで
発給を約束している許可隻数はとてもパラオ協定の205隻の枠内に
納まらないことは明らかです。また、科学委員会の議論を聞いていれ
ばこれ以上の隻数増加を認めることは出来ないことも明らかです。
そこで隻数制限に代えて隻日数制度の導入が、2007年12月1日に行わ
れました。これにより前2005年12月開かれた第二回WCPFC会議に
おいて漁獲努力量を2004年又は2001〜2004年の平均レベル抑える措置
を2006年より実施することとし、PNA諸国はVDSを2007年12月1日
までに完全実施し、それは2004年レベルを超えないということを書き
こませており、これを梃子に以後、WCPFCの管理は島嶼国が主導
権を握る結果となっています。隻数制限から隻日数制度に移行した
結果、米−FFA協定の空枠見合で発給されていた許可も正式に認知
されました。さらにこの後で米−FFA協定の下での実稼動船は2007年
には17隻まで落ちこんでいましたが、米国は2008年までに40隻まで
実稼動船を戻しましたので、大幅な増隻となり、口では努力量の削減
を叫びながら、実際は大幅な増加となっているという結果になってい
ます。このようなことをしていると中西部太平洋のかつおまぐろ資源
は枯渇してしまいます。この米−FFA協定船を12隻から一年で一気
に40隻まで戻した仕組には、台湾船、ヴァヌアツ籍台湾船、トライ
マリーンの船等を米国の会社との合弁会社の所有に仕立て米国籍とし
ています。この増隻にあたっては、米国政府は「米国で建造した船で
なければ、米国々旗を掲揚することは出来ず、米国水域内で漁業を
行ってはならない。」という有名なジョーンズ法を改正し、米国本土
水域を自治領・属領水域とを区分し、本土水域おいては引き続き従来
通りの措置とするが、自治領・属領水域については規則を緩和し、
米国人は51パーセント以上の資本を有する合弁会社であれば、その
所有あるいは使用する船舶は外国で建造した船であっても幹部乗組員
として米国人が一人乗り組んでいれば米国旗を揚げて操業出来るよう
に改正しました。

12 厳しい規制措置の導入

 2008年12月韓国の釜山で開催されたWCPFCの会議において、
まき網、はえなわについて、科学委員会の勧告を基に、めばちについ
て2001年〜2004年あるいは2004年水準の30パーセントの漁獲努力量
あるいは漁獲量の削減を受け入れました。その結果まき網については、
2009年8月、9月二ヶ月のFADS操業禁止、2010年には8月、9月、
10月のFADS操業禁止が、はえなわについては30パーセントの漁獲
努力量の削減の規制が導入されることになりました。この水域の操業
は、FADSを使用する操業が最も効率的で経済的であり、わが国
漁船の操業はこれに大きく依存してきましたので、相当苦しい操業を
強いられています。来年三ヶ月のFADS操業禁止、ポケット公海
禁止と規制が強化されますと経営そのものが成り立つか否か海まき
のみならずまぐろまき網そのものが瀬戸際に立たされることは必至で
あり、次の段階として減船問題が浮上してくるものと思われます。
その場合わが国のようにMHLCの決議を忠実に守ってきた国と台湾
のようにそれ行けドンドンと船数を倍増させた所とを同率で減らす
のはあまりに不公平であり不公正でありましょう。

13 結論

 いずれにせよ、中西部太平洋のかつおまぐろ資源をめぐる状況は、
資源争奪戦の様相を呈しており、わが国も重要な国民のたんぱく食料
である、かつおまぐろ資源の持続的供給を確保するために強力な政府
の支援の下に漁業者、加工業者、市場流通業者、消費者が連携して立
ち上がるべき時がやってきたと思われます。
                                                   
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