世界の鶏の羽数は200億羽だそうです。つまり、ヒトが70億人ちょっとですから1人に3羽となり、これは他の畜産動物はもちろんネズミや小鳥を含めた野生動物のどの種よりも多く飼れているといいます。ニワトリの祖先はアジア地域に生息したセキショクヤケイ(赤色野鶏)であるというのは定説となっていますが、このほかにセイロンヤケイ、ハイイロヤケイ、アカエリヤケイがいるのですが、それらがなぜ世界中に拡散したのか。著者は、人類の移動と共に世界中に広まったとし、最初は食料としてではなく、信仰の対象としての神の使い・生贄あるいは野鶏の闘争心の強さ利用した「闘鶏」をともなっていたといいます。ニワトリの遺伝子の持つ多様性を利用してビクトリア朝のヨーロッパに移入されたころから、上流階級の人々に羽色や姿・形が変わったものが求められ、ペットとしてだけでなく、食料としての鶏肉・卵が注目されるようになり、それがアメリカに飛び火して今日のような姿になったといいます。
 アメリカにおいてもしばらくは女性が副業的に飼う(裏庭でもできる)自給的な形での養鶏だったようです。また、フライドチキンはアメリカの代表的な料理の一つですが、この料理のルーツも奴隷制とも絡んで、鶏以外の家畜を飼うことを許されなかったアフリカから連れてこられた人たちが持ち込んだ加工法といいます。
 アメリカの養鶏産業は1900年代に入ると急速に拡大をし、今日の基礎が出来上がって、鶏の改良とインテグレーションが始まります。裏庭でミミズを啄んでいた鶏は、トウモロコシを啄み、肉や卵の生産を最大化するように改良され、その品種は車の型式のように番号で呼び、それぞれのメーカーによって交配が進められ、他のメーカーの鶏との交配は考えられないまでになってきています。
 もし、鶏が今いなくなったら、世界は大パニックに陥るだろうといいます。では今後、養鶏産業はどうなっていくだろうか。今問題になっている動物福祉的な考え方をより徹底していく方向になるのではないかと示唆していますが、発展途上国やアフリカ諸国での生産の拡大は目覚ましいものがあり、これからも効率の良い動物たんぱく質供給の役割は肉・卵ともますます重要になっていくとみています。いずれにしても、人の歴史とともに歩んできた鶏を再評価・認識して、感謝をささげることが必要と言っている気がいたします。アメリカ方式のインテグレーターの生産体制と在来型(?)の小資本・資源型の生産が並行していくのではないかとし、本書が文明論としている意義はここにあると思われます。詳しくは「ニワトリ―人類を変えた大いなる鳥―
 アンドリュー・ロウラー著 熊井ひろ美訳」(A5版366頁、定価本体2400円+税)をお読みください。

著者:アンドリュー・ロウラー 
ニュウヨークタイムズなどで執筆、論文多数。
訳者:熊井ひろ美:翻訳家、訳書は多数。