カマルグの白い馬〜湿原に駆ける牧童達の夢

カマルグ湿原 ヨーロッパアルプスに源を発したローヌ川は、遥かフランスを横断して地中海に注ぎます。そのローヌ川の河口、南プロバンス地方に広がるのがカマルグの大湿原です。
 カマルグは、ヨーロッパでも有数の鳥類の生息地です。フラミンゴが舞う野鳥達の楽園のこの地に、何時の頃からか"白い馬"の群れがやってきました。しかし、その起源は謎につつまれています。旧石器時代ラスコーの洞窟に描かれた馬によく似ていると言われます。また、アジアの蒙古(もうこ)馬だとか、古代ローマ時代、ローマ人が伝えたアラブ種の血統だとも言われています。いずれにしても、その祖先たちは、謎とロマンを秘めて、遙か昔からカマルグの原野にやって来て生き続けているのです。

湿原を走る馬 カマルグの白い馬達は水飛沫をあげて湿原を駆け抜け、川を渡り、海を泳ぎます。
 体型はそれほど大きくありません。しかし厳しい自然条件の中で育ったので、耐久力があり湿原で疾走する力を持っています。また、驚くほど敏捷で、方向転換や停止能力にも優れたものを持っているといわれます。
 そして、この"白い馬"を追う、男達がいます。
 ギャルディアンと呼ばれ、この白い馬を育てる牧童のことです。
 カマルグの馬は、15世紀には4000頭もの牝馬がいたと言われていますが、20世紀になってカマルグの開発が進み急激に馬の数が減りました。そして、保護の手が伸び、ようやく1000頭を超すまでになったのは、最近のことです。1966年に、カマルグの馬は、純血種として、公式に種馬登録されるようになりました。

仔馬誕生 春まだ浅い4月、それは仔馬誕生の季節です。仔馬が次々と生まれる春は、ギャルディアンにとって大変忙しい季節です。群れから放れた母馬は、人間の手を一切借りず、自然の中で仔を生みます。この仔馬は生まれたときはなぜか黒か濃い茶色をしているのです。そして、成長して3歳から5歳になると母親そっくりの白い馬になるのです。
夏になると仔馬が育ち母馬とともに新しい牧場に移動していきます。この夏を過ごす牧場に、雌馬の血統や特徴を慎重に考えどのような群れ作りをするか、そして、安全に牧場へ移動させるかというのがギャルディアンの重要な仕事です。そして母馬と仔馬は、湿原に水の無くなる夏から秋まで、いっしょに過ごすのです。夏が終わればすぐ冬の準備にかかります。

 さて、5月1日は、アルルにて、ギャルディアンたちの祭りがあります。古代ローマ帝国時代の闘技場が残り、ゴッホやドーテの思い出が刻み込まれた町で、民族衣装に身を包み行進し、闘技場で5世紀にもわたって受け継がれた馬にまつわる伝統の競技を繰り広げます。リボンの争奪、ブーケの競技、槍競技等、そこには、人と馬との長い歴史と文化が、今も伝えられているのです。

 遥か昔から"馬"は人々の夢を乗せ大地を駆けてきました。
 ギャルディアン達は、いつまでもカマルグの白い馬が、この湿原に生まれ、育つように、願っています。ギャルディアン達の夢を乗せカマルグの白い馬は、この湿原を駆け抜けます。